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もうLOVEっ!ハニー!
第1章 生まれ変わり
「お前の席ねーからっ」

 なんていうドラマだったかで有名になり、今や冗談の一つに仲間入りしたこの人気フレーズは、私にとっては凶器でしかありません。
 ぐさっなんてもんでもありません。
 心臓をずぐりと突き刺して息の根を止めにかかるくらいの危険度をお持ちなのです。
 私は、何度もこの台詞に襲われました。

 朝起きると、早く家から出ようと必死になります。
 まずは低血圧くらいしか自慢の無い姉を殴られる覚悟で起こすために六時に起きるのです。
 目覚ましがあまり長く鳴っては父に怒られるから、いつも浅い眠りでばっと飛び起きるんです。
 すぐに着替えて、姉の部屋に猛ダッシュ。
 足音を立ててはいけません。
 ノックは必ず三回。
 意味があったためしはありません。
「お姉ちゃん。朝ですよー」
 そろそろとベッドに近づくと、頭まで被った姉がいます。
 ここでめくって、一度知らない男と裸で抱き合ってたことがあるので怖くてめくれません。
 まずはカーテンを開けて、窓を全開にします。
 ふわっと春の熱気が吹き込んで、部屋のポスターが揺れます。
 さあ、時間もないので起こします。
 どうせ今日で最後だと思うと、大胆に起こしたくなるもので、私は拳を大きく振りかぶってベッドの縁を殴りました。
 木と拳。
 そりゃ、負けます。
 でもその振動は計算通り、姉を夢から連れて来てくれるものでした。
「……っさいなあ!」
 姉が布団から出る前に部屋から出ます。
 これが最重要事項です。
 次はキッチンで朝食づくり。
 シャワーに行く姉に遭遇しないよう、カウンターの影に隠れます。
 お風呂の扉が閉まる音がしたら、卵とパンを準備です。
 今日くらいは雑でいいのです。
 じゅわあっと卵を焼いて、ソーセージを茹でて、キュウリをとんとん。
 手抜きサンドウィッチの出来上がりです。
 毒でも混ぜたいところですが、道連れはだめです。
 鞄を持って、そっと玄関から出ます。
「いってきま……あ、違いました。さよおならー」
 母が下りてくる音がしたので、また猛ダッシュで登校します。
 朝から愚痴を聞かされるのはもう昨日で最後です。
 生まれた時から懐いてくれなかった愛犬ゆあに吼えられるのもおしまいです。

 私は、中学を今日で卒業します。
 このくだらない人生からも、卒業します。
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