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もうLOVEっ!ハニー!
第12章 騎士は王子と紙一重
騒ぎが聞こえて私にアイコンタクトを送ってきたのはつばるだった。
何かと思って近づくと、小声で「女子トイレだ。お前の好きな先輩の声だった」とだけ囁いてロッカーに向かった。
すぐに足は教室を出て、人が群がるその小さな空間に向いていた。
おろおろと中の様子を窺うしかできない私の目の前に、彼女はふらつきながら現れた。
「美弥、さん」
今すぐ誰かが抱きしめないと、崩れ落ちてしまいそうだった美弥の顔が、いつもの生気を取り戻す。
「かんな」
細い指が頬に触れ、それから甘い髪の香りが私を包み、ぎゅっと抱かれていることに気がついた。
すぐに視線が突き刺さってくる。
「あ……あの、美弥さん。ここじゃ目立ちます」
「目立っていいよ。かんなはボクのものだって知らしめてやれ」
あれ。
なんだか、美弥さんの様子が違う。
肩が少しだけ情けなく震えている。
その向こうの人だかりの中心に見えた人物にぞくりとした。
アリスが、勝ち誇ったように此方を見て眼を細めていたのだ。
聞こえてくる怪訝そうな声。
男子たちの好奇な視線。
何かが始まりそうな高揚感。
これ、感じたことがある。
あの日、勝見博也に話しかけられたときに顔を背けた瞬間の空気だ。
よくない。
よくないよくないよくない。
本能が告げている。
これは美弥さんにとっても凄くよくない事態だ。
「気持ち悪い」
あ……
断片的にですが、はっきりと聞こえた言葉。
遠く遠くに霞んでいくも、輪郭だけは衰えない言葉。
どうして、そんなこと。
アリスはなんで、美弥さんと騒ぎなんて。
「ごめんね。かんな。巻き込んじゃって」
「え?」
髪を撫でながら美弥は囁く。
「あのアリスって奴に嵌められちゃったかも。これでボクは一年生から異常な先輩って印象付けられたから、会いに来づらくなるね。むかつくなあ、まったく」
その軽い口調に伴わない暗い声で。
目線だけで振り向くと、教室の窓から首を出していたつばると眼が合った。
-また流されんの、お前-
そんな皮肉な思いをこめた眼が。