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もうLOVEっ!ハニー!
第14章 思惑シャッフル

「うちにも入ってこんとええな」
「手を出すバカいないでしょ」
 こばるは軽く言いのけたが、すぐに考え直した。
 人が落ちていく時は一瞬だ。
 夕方の勝見たちの姿を思い出す。
 警官に連れられていく間も、女子はともかく男たちの顔に後悔はなかった。
 まるでトリップに見る夢のひとつのように。
 笑っていた。
「万が一やけど耳に届いたら俺にも教えてえな。潰しがいありそうやから」
「無茶しそうなんで黙っときますよ」
「言うやん、クソガキ」
「ちょ、オレの弟」
「ええやろ、可愛がっとる証拠やし」
 遠慮のない会話に笑いつつも、つばるは先の管理人室での出来事に思いが飛んでいた。
 もし……
 もしあの時、ちゃんと家族に向き合う覚悟でここを離れていたら……
 かんなをこれ以上苦しめることは無いだろうに。
 その覚悟までたどり着かなかった。
 結局自分が一番で、贖罪よりも安全を取った。
 家族に居場所を知られる訳には行かない。
 奨学金で多額の借金を背負おうとも。
 安月給の就職が待っていても。
 逃げ続ける人生を選んだんだ。

 汚い人間。

 パコンと頭を叩かれて現実に戻る。
 手の主は案の定、岳斗。
「無視とはええ度胸やな」
「え、なんて言ってました」
「あいつらとほんまに気が合うてたんか。こばるはお前、一人も友達おらんて」
「勝見たちですか。クズ同士つるんでましたよ」
 初めてかもしれない。
 こんなにも気兼ねなく話しているのは。
 かんなの前での本音とはまた違う。
 同性だから許される温度。
 兄貴がいて、兄貴の尊敬する先輩がいて。
 そこでふと、つばるは思い出した。
「岳斗先輩、今聞く話じゃないかもですけど」
「やめろ、つばる」
 ひと足早く察したこばるが止めるが、その先は既に本人が拾い上げていた。
「ああ。返事ならまだもろてへんで。さっき廊下で会うた時の態度見てわかるやろ。望み薄」
 あっけらかんと。
 照れなど知らぬように。
「悪いことした思うとるよ。あの子に断る勇気はないやろ。そのうち自分から取り下げよ思て」
「え、マジっすか」
 こばるが素っ頓狂な声を上げる。
「てっきり、口説き落とすのかと……」
 言ってから後悔した。
 焚き付けてしまったから。
 岳斗は愉しげに目で笑う。
「したら今ほどのチャンスはないな。煽っとる?」
 つばるは何も言えなかった。
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