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もうLOVEっ!ハニー!
第14章 思惑シャッフル

 村山薫が去ってから二週間。
 夏休みが始まった。
 なんだか何もかもが静かで。
 静かで。
 心を騒がせる隣人はおらず。
 美弥の夜中のチャイムもなくなった。
 たまにアンナに襲われてキスをしているのを何度か見たけれど、心は静かだった。
 つばるも教室で話しかけてくることもなく、バスケで生まれた友情を育み、クラスの男子と常につるんでいた。
 食堂で会うのは二年生が中心で、そもそも三年生は受験に向けた補習で忙しく、寮の共同スペースにいる時間も短くなった。
 シャワールームやランドリーですれ違って挨拶はしても、立ち話は踏み入った話にまで至らない。
 でも本当はわかっていた。
 あの一件で、避けられていることを。
 それはそうですよ。
 刃物を持ち出してくるような知人がいて、つばるにいじめられていた事実が白日に晒されて。
 そりゃそうです。
 寮全体に迷惑かけて。
 私だけ無傷で。
 なんの処罰も変化もない。
 これが本来望んだ生活かもしれない。
 心が乱されず、美味しい食事と、最低限の人との関わり。
 女子の中で人気だった薫の転校に質問攻めにされたのも二日間だけ。
 図書室に向かうのも慣れたもので、休み時間の限りそこで過ごした。
 学習スペースには司と清瀧が並んでいるのを見かけるが、勉強に集中して目も合わない。
 幽霊のような学期末を過ごした夏休み初日。
 部活動に励む声を横目に図書室に向かっていると、後ろから呼び止められた。
 夏の眩しい日差しの中で、扇子を仰ぎながら歩いてくる大きな影。
 目の前で立ち止まると、チャッと扇子を閉じて、蝉の声に溢れる世界をさらに明るく照らす笑みを浮かべた。
「やあっと期末テスト終わってん。デート行こか」
 なんだか泣きたくなりました。
「はい、ガク先輩」

 あの騒ぎの日、勝見を取り押さえた横顔はよく覚えている。
 手馴れた素振りで腕を締め上げて背中にのしかかり、動いたら仕留めるぞと言わんばかりの眼光。
 パトカーに向かう時に見送った優しい目。
 つばるのスーツケースを持ちながら、軽々階段を上って行った背中。
「電車ん中だけサブいな」
「先輩薄着すぎるんですよ」
 Vネックの白い無地半袖に、透けた薄緑の七分丈シャツを羽織って、黒いヒラヒラのガウチョパンツ。
「上着持てばいいのに」
「夏くらい手ぶらがええの」
 悪戯っぽく手を振る。
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