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もうLOVEっ!ハニー!
第14章 思惑シャッフル

「連絡先は?」
 唐突に言われたので、何のことか判断するのに数秒かかってしまった。
 携帯を取りだし、トークアプリを開く。
「なにこれ、かおりんからのスタンプだけ?」
「だって話すことないっすもん」
「なーんだ。じゃあ、忘れるのもすぐだよ。ブロックするんでしょ」
 返してもらった携帯の画面を眺める。
 手を引いて案内した入学式前の朝。
 バレーボールの勇姿。
 いつでも誰かのそばにつきたがった小柄な姿。
「するよ」
「傷心したからってかんなに乗り換えたら許さん」
「無理無理。ガク先輩に美弥先輩のタッグに勝てるわけないって」
「負け戦はしない趣味かにゃ。つまらん男だに」
 ふっと笑って缶を飲み干す。
 負け戦か。
 かんなを初めて見た時は可愛いなと思った。
 行事の度に存在感を増して、なんだか目が離せないとは思っていた。
 でもなんだろう。
 元カノに似てるだけじゃなく、なんだか近寄りがたくなったのはキャンプ以降だ。
 あの子には、警戒心が、無さすぎる。
 それは余りにも脆く、恋心を抱くには恐ろしい。
「どうせ俺は日和見ですよ」
 美弥が野球フォームを真似るように缶をゴミ箱に放ると、綺麗にジャストインする。
「それ、燃えるゴミ専用」
「異物上等」
「片付けるの俺すよ」
「はいはーい」
 美弥が屈んで缶を取り出し、キッチンの青い指定袋に入れ直す。
 寝起きよりはずっと呼吸がしやすい。
 相談役と自他ともに認めるだけある。
 サラサラの髪を揺らして、美弥が微笑んだ。
「いい顔になったね、三陸」
「どうも」
 満足したとばかりに玄関に向かう背中に、つい手が伸びてしまう。
 腕を掴まれた美弥がキョトンと振り向いた。
 傷心が呼び寄せた行為だ。
 さっきのハグがあまりに優しかったから。
 陸の手が、美弥の手を握る。
「え、と。いや、なんでもなくて」
「そお? 一緒に朝ごはんでも食べいく?」
 陸は泣き笑いそうな気持ちで頷いた。
 部屋に入ってきた時よりも何倍も美人に見えてしまうのは、フィルターがかった調子良い心のせいだ。

 茜が窓を拭いていると、丁度真下を歩いていく影に気がついた。
 窓を開けて身を乗り出す。
 落下防止の柵を掴んで声をかけた。
「美弥ー! おっはよー」
 振り向いた隣の男が陸だったので、これは意外と口に手を当てる。
「おはよ。茜、ばーい」
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