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もうLOVEっ!ハニー!
第14章 思惑シャッフル

 夏休み初日は、マリケンとライブ参戦の約束。
 朝からフルメイクにたっぷりと時間をかけて、ヴィジュアル系バンドのボーカル瑠衣コンセプトのヘアスタイルに、気合いを入れる。
 朝七時から部屋に来ていたマリケンもジェルで整えるのを手伝う。
「まじ今回は全落ちしたから、マリケンがいてくれたお陰で生きてるわ」
 尚哉の言葉に自慢げに笑いながら容器に着いたジェルをティッシュで拭う。
「まあハンバーガー奢ってよ。昼からって珍しいよね。夜だと帰り混むから助かる」
 仕上げにグレーのカラコンを震える指で何度かトライして、上手く入ったのを瞬きで確認する。
 ファンたるものライブコンセプトに同化する手間は惜しまない。
 会場に大量に現れるであろうコスプレを見るのも楽しみの一つになる。
 出発前の腹ごしらえにとマリケンが前日仕込んだタマゴサラダを、これでもかと挟んだバターロールを二人で頬張る。
「にしてもさ、一学期長かったね」
「長いっつか濃かったな……」
「新入生の話?」
「流石に開校以来初だろ。新入生が一学期で強制退寮からの、異例の部屋移動」
「こういうのもなんだけどさ、こばるがいてよかったね。ほら、関わりにくいじゃん流石に。身内が守ってくれてよかったなって」
 同意の頷きをしつつも、あれからかんなのことも避ける風潮には頭を悩ませていた。
 美弥ですら、隣を歩いている頻度が減った。
 かといって自分が名乗り出るわけにもいかない。
 この部屋での失態を思い出して眉間を押さえる。
「ちょ、崩れるよ。何してんの」
 目ざとくマリケンが手を引き剥がす。
 丸々した優しい顔にふっと笑いが漏れてしまう。
「俺ほんとマリケンがいて良かった」
「えっ、なに。友情以上は無理だよ」
「そういう意味じゃねえよ、バカ」

 いつもより眼力の強い親友を眺めながら、手毬賢はほっとしていた。
 ここのところ暗かった顔に気力が戻ってる。
 やはり推しの力は偉大だ。
 ステージに立つ瑠衣の勇姿を見れば、この小さな箱の中の恋慕なんてどうでも良くなるだろう。
 そしたらもっと話も盛り上がるだろうし、グッズを買いに出かける機会も前みたいに増えるはず。
 恋愛なんて巻き込まれるものじゃないのだ。
「今日はたっぷり散財してさ、一緒にまたバイトしようよ。またホールスタッフがいいなあ」
「だな」
 二人は意気揚々に寮を出た。
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