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もうLOVEっ!ハニー!
第15章 何も叶えぬ流星群
コーヒーの苦味と冷たさが、程よく頭痛を誤魔化してくれる。
冷静に考えれば滑稽な話。
同じ女に告白した男が二人。
さらにもう一人のライバルを案じている。
奇妙な状況だ。
「なにわろてんねん」
「だって、笑うしかないでしょ。去年まではガク先輩と話すのなんて隆にいへの愚痴か、こばるとどこ行っただなんだって」
「確かにな。いっちばんめんどいもんな、後輩と拗れるなんてなあ」
「まあ別に俺は応援しますよ」
コーヒーを飲み干し、岳斗が頬づえをつく。
「なんで取り下げたん?」
「いや聞きます? それ」
「マリケンにも話せんことやろ。言って楽になるなら聞こかなて」
「いやいやいや。ガク先輩にだけは言わんでしょ」
しかもあまりに情けない。
あの行動に応えられず、自信を失って。
何度反省会をしたことか。
夜寝る前に過ぎるんだ。
喉元の熱さが蘇るように。
きっと岳斗はそうはならない。
受け止め切れるだろう。
「墓場まで持ってくん?」
「ですね。ガク先輩もそういうことあるでしょ」
「んはっ、あるある。ぎょーさんある。中学なんて黒歴史オードブルやもん。恋愛なんてもう……あかん。くーには話せんことばっか」
だろうね、と目線を送り、コーヒーを飲み干す。
用事は済んだとばかりに空のグラスを一瞥してから、同時に立ち上がる。
伝票に手を伸ばすと、サッと取られた。
「先輩なんで」
「ゴチになります」
「話してくれてありがとな。先帰るで」
颯爽と出口に向かう背中を見つめる。
なんだろう。
大丈夫だろうとは思う。
かんなの無茶な要求に、あの人なら応えられる。
でもなんだろう。
素直に安心できないこの不安は。
「散々な思い出だな……」
ヘッドフォンを付けながら誰にも聞こえぬ声で。
早くベストアルバムを買いに行こう。
何も変わらぬ日常をまた続けよう。
さっき玄関で声をかけようと口を開いていたかんなと話す必要はもうないんだ。
今更何を聞きたいのか。
あのか弱い存在を守りたかった。
自分じゃ力不足だった。
強者がかっさらっていくんだ。
岳斗と美弥だぞ。
こういう時に失恋ソングを、人は求めるんだ。
無意識に選んだ曲名に笑いが漏れる。
「永遠に、額縁の中で」
喫茶店から出ると、岳斗の姿はなかった。
天体観測、か。
マリケンとなら、観てもいいかな。