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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 八月二週目に入り、赤本も解き尽くした清龍は、司と図書室に通うのを一旦取りやめて互いに自室で励む方に切りかえた。
 苦手ジャンルを虱潰しに復習し、国数英三科目では特に知識の抜け落ちを補充し続ける。
 食堂では単語帳を開き、屋上で煙草を咥えながらも英語のリスニングに耳を傾ける。
 勉強に集中することで、考えないようにしているのは百も承知だ。
 暇さえあれば真っ黒な蛇が飲み込みに来るような不安に襲われてしまう。
 天体観測の日、屋上で岳斗は何を願ったろうか。
 かんなは。
 寮内で見かける機会は度々あるものの、二人で歩いている姿は決まって屋上から見下ろす時のみ。
 まだ至近距離で見ていないだけ心の平穏が保たれている気がする。
 元カノ話の時と違い、岳斗も現在進行形の恋愛について語る趣味がないのも幸い。
 たまに食堂で一緒になっても出てくるのは将来の話、受験について、後輩たちの趣味についてのみ。
 卒業までにまたサークルでイベントをやりたいだのと、受験生らしからぬ楽観主義には閉口するが、ピリピリした同期だけでは無いのも癒しではある。
 それでも……
 タバコの煙を見あげながら、大きな入道雲に埋まる空に思いを馳せる。
 だからといって、この友情に影響が無いわけじゃない。
 なるべく接点を作らぬように、入浴時間もずらし、早朝ウォーキングにも鉢合わせぬようにしている。
 司には勘づかれているようで、何度か体調を心配されてしまった。
 訳を話す訳には行かないじゃないか。
 墓場まで持っていくべきだ。
 三本目に火をつけながら、英語の羅列から意識が離れていく。
 もしも……
 もしも、過去のことを岳斗に伝えたら。
 そんなおぞましい考えも何度目のことか。
 彼女に対して嫉妬と潔癖の強い岳斗が気にしないわけが無い。
 以前別れたのも元カノの周りに、元カレの影が見えてしまったからだ。
 尽くすタイプにはえげつない影響が出る。
 四本目を歯に挟む。
 ライターのオイルが切れており、諦めて箱にしまう。
 付き合いたての二人の足取りは軽く、それを見る自分があまりに惨めだ。
 岳斗と親友でなければ。
 かんなと面識がなければ。
 こんな苦しまず、自分を騙し続ける必要もなかっただろう。
 増えていく喫煙量に、元々適していない体が不調を訴えつつある。
 向いていない。
 執着も向いていない。
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