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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 温泉旅行を提案されたのは、天体観測の翌週のこと。
 二度目の情事の後でした。
 裸で抱き合ったまま話すのが心地よくて、夏休み後半に何をしようかと計画を立てたのでした。
「箱根行ってみたいんやけど」
「いいですね、私も行ったことないです」
「流石に貸切風呂付までは予算ないけど、旅館に泊まれたら楽しそうやな」
 指先を絡ませながら。
 胸元に滴る汗を手の甲に擦り付けながら。
「私もバイトしますよ。自分の分くらい稼ぎます」
「ほんなら、採点バイトが楽でええよ。こばるから紹介してもらい」
「内職ですか」
「せやね。カフェとかリゾバとかされて、良い出会いがあっても嫌やし」
「そんな心配無用ですよ」
「し過ぎてもええと思う」
 至極真面目に言うので、クスクスと笑ってしまう。
 時折見せる不安な目線が、あまりに似合わない。
 ほっぺをむに、と掴まれる。
「警戒心持ってな。ないと思っとるけど、俺浮気されたら耐えられへん」
「絶対ないれす」
 掴まれたままなので上手く発言できず、間抜けな声で答えてしまう。
「卒業しても?」
「当たり前ですよ。先輩こそ大学でモテすぎて私の事なんて忘れるんじゃないですか」
 言い終える直前に口を塞がれる。
 長い舌先が遠慮なく上顎を舐め上げて、涙を引きずり出される。
「んんっ」
 髪を撫でながら唇を離し、低い声で告げられる。
「卑下すんな。心底惚れとるんやから」
 かああっと熱くなる顔を胸板に埋める。
 まだまだ現実味がないのです。
 こんなに幸せでいいのかって。
 孤独な夏休みを覚悟していたからこそ。
 あの初日に扇子を持って、デートに誘い出してくれたあの日からふわふわと。
 夢見心地な日々を過ごしている。
 顎に手を掛けられて、上を向かされる。
「これだけは約束して欲しいんやけど」
「はい」
「俺以外の男と二人きりにならんでね」
「管理人室行けないですよ」
「隆にいは別。ギリギリな」
 でも鳴海さんがいる時がいいでしょう。
 酔ったあの日が繰り返されたら、目の前の人をどれほど傷つけるか分からないから。
「今日、こばるさんに聞いてみますね。バイトの話」
「登録会は一緒に行こか」
「助かります」
 旅行に向けて、目標のあるお金稼ぎ。
 なんだかワクワクしますね。
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