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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 チャイムを鳴らして数十秒。
 粘って待ったおかげで、扉が開かれた。
「なあに、ガクちゃん。惚気ならお断りだよ」
 天体観測の日よりも数段艶やかな雰囲気を纏う同級生に面食らうも、岳斗は用事を思い出す。
「五分で済ますわ、入ってええ?」
「ええー、良いけどお。男入れる趣味ないよ」
 不満は隠さないとばかりに、美弥が道を開ける。
 ピンクの上下のジャージにポニーテール。
 寮内一の美髪が揺れる。
 携帯で洋楽を流していたようで、聞き覚えのある音楽を指先で止めた。
「で、どしたの」
「すごい熱気やけど、筋トレでもしてたん」
「パワーヨガだよ。窓開けるね」
 スタスタと窓辺に近寄り、大きく窓を開け放つ。
 セミの元気な声が流れ込む。
 振り向いた美弥が話を促すように首を傾けた。
「清となんか変な話しとらんかった?」
「いつの話だよー」
「キャンプん時」
 テントになだれ込んで行った二人を追いかけたのを思い出す。
 美弥は記憶を辿るように宙を見つめてから、ああ、と声を漏らした。
「何かと思えば。清とまさか話してないのかにゃ」
 ずぐり、と胸に黒いものが刺さる。
 その発言は、求めとらん。
 美弥の大きな両目がゆっくりと動く。
 言葉の前に、目が語っていた。
「あいつ、かんなのこと好きじゃんね」
 脚が体を支えるのを放置する。
 ちょお待ち。
 ちょお、待って。
 ほんまにしんどい。
 最後だけ言葉に出ていたようで、美弥が駆け寄ってしゃがんだ肩をポンと叩く。
「しらなかったの? 鈍すぎだねー、ガクちん」
「なんであいつは俺に言わんの、それ」
「言えないでしょー。ボクみたいにノーブレーキじゃなけりゃ、ガクが狙ってる女の子の話なんて」
「いや、きしょい。隠し通すんねやったら、なんで美弥にはバラしたん」
「ボクが追い詰めたからかな」
 つい先日、尚哉と話したばかりなのに。
 知らなくていいことを掘り出してしまった。
 清龍がここ一ヶ月避けていたのを思い返す。
 早朝も出会わず、食堂でも言葉少なく。
 いや、おかしい。
 かんなとの接点があいつは無さすぎる。
 そして記憶は春休みにまで舞い戻る。
 かんなと、初対面した校舎で。
ー……気づくなよ。人違いだー
「入学前からか」
「えっ、なにが」
 美弥のキョトンとした顔に、笑いが込み上げる。
 ほんま。
 何がって話やな。
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