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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 あっという間にジェラートを食べ終えて、冷えた口内を舌で舐めながら資料を再確認。
 とりあえず登録会に応募をして、日付が決まったら会場で軽い面接。
 それから二日後には採点資料が届くので、三日以内に返送してから更に三日後に入金。
 ハッとする。
 口座がない。
 銀行に行かねばですが、経験者に聞いた方がいいですよね。
「アイスご馳走様でした」
「また新作出来たら食べてってねー」
 手を振る司に頭を下げて、清龍の後ろをそっと通り廊下に出る。
 管理人室に足を向けかけて、思案する。
 隆人さんに頼んだとして、銀行に同行まではしてくれないですよね。
 でも三年生方は講習で忙しいはず。
 それなら、頼むべきは、二年生。
 以前なら尚哉さんかマリケンさんの二択でしたが。
 今はその二人に頼むのは烏滸がましい気がする。
 ルカさんはモデル活動で留守が多い。
 とすれば、陸さん?
 爪先が目的地に向いた時、後ろに立っていた影が名前を呼んだ。
 ビクリと肩が跳ねてしまう。
 ちゃんとスルーしたのに。
 どうしてそちらから。
「さっき見てたやつ、経験あるから。準備あるなら手伝うけど」
 真顔にも程がある清龍に、返事が澱んでしまう。
「い、いえ、口座がそもそも……」
「駅前で作れるよ。連れていこうか」
「だ、大丈夫です!」
 逃げるように玄関に早足で向かう。
 何考えてんですか。
 何気楽に声掛けてきてんですか。
 貴方だけはダメでしょう。
 透明人間でいてくれないと。

 はっは、と息を切らして震える指で靴箱を開き、部室棟に向かって足を進める。
 もうこのままこばるさんを待つことにしましょう。
 バスケ部が終わりそうになければ、夏期講習のガク先輩が出てくるのを待ちましょう。
 部室棟前のベンチに一旦座り、深呼吸をする。
 胃のあたりがキリキリ痛む。
 準備なら手伝うけどってなんですか。
 馬鹿なんですか。
 叫びたい衝動を踵に込めて地面を踏みつける。
 夏休みに入ってすれ違うことは数度。
 声をかけてくることは無かったのに。
 さっきのあの目。
 暗くて、それでいて捕らえるように真っ直ぐで。
 カウンターにいる間も早く逃げたかったのに。
 ああ、弱い。
 トラウマひとつになんて弱い。
 元気な生徒たちの声を四方から浴びながら、木陰で一人震える。
 なんて滑稽でしょう。
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