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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 サワサワと風が吹く。
 気づけば一時間ほどぼーっとしていたようで、休憩に水場に集まった生徒たちから好奇の視線を浴びる。
 急いで避難をと校舎に向かい、図書室に逃げ込む。
 出てきた影にぶつかりそうになり、咄嗟に支えられたのは細い両手。
 フワリと優しいローズの香りに顔を上げると、御巫アリスが立っていた。
 目が合って、互いを認識して、にまあっと笑みが広がっていく。
 こちらの反応も待たずに腕を引かれて、中庭に連れ出される。
「あらあらあら、なんて運命なの。今朝本を借りようと思い立ったのは、貴女に会うためだったのね」
「ちょ、と待ってください。私図書室行かないと」
「少しくらいいいじゃない?」
 手を離し、両腕を優雅に空に向けて。
「こんなに爽やかな天気に、好きな人と過ごす時間をくださいな」
 なんて軽やかに。
 自由に。
 嬉しそうに。
 黒い長髪を艶やかに揺らし。
 アリスは微笑んで近づくと、さも当たり前のように頬に手を添え顔を寄せる。
 急いでその口元を手で押える。
「し、しませんから!」
「あら?」
 不思議そうに瞬きをして、アリスが顔を起こす。
「久しぶりの挨拶すら許してくれないの?」
「私はキスフレ……なんて、文化ないです」
「受け入れてしまえばハグよりずっと救いになるのに」
 どうして分かってくれないの、と純粋な疑問に溢れた視線から目をそらす。
 今は気分を乱さないで欲しい。
 ただでさえあまり良くないのに。
 アリスは髪を耳にかけて、気にせず微笑む。
「人目のせいね。でしたら、職員室の隣の御手洗に行きましょう。あそこは滅多に人も来ないので個室でのんびり唇を堪能できるもの」
「だから、私はしないって」
「美弥先輩はしてくださるのに」
 急に出た名前に頭が熱くなる。
「か、軽々しく言わないでください」
 アリスは笑みを崩さない。
「どうして? アレはもう貴女のものでは無いじゃない。夏休みに入ってからは、それはもうすごい時間をくださるのよ」
 想像が浮かぶ前に首を振る。
 だって本当か嘘かわからない。
「とにかく、もう構わないで。今は付き合ってる人がいるんです」
「ええ、全然気にしないわ」
 宇宙人ですか。
 こんなに響かない事ありますか。
 陽光を浴びた美女がそら恐ろしく見えてくる。
「だってその人来年にはいないじゃない」
 なんでつばると同じことを。
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