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もうLOVEっ!ハニー!
第17章 深い底まで証を
「今年の一戦目、去年の県大会優勝校って聞いたけどマジ?」
ジェルを借りに来たつばると並んで鏡の前でセットをしつつ、こばるはゲンナリと答える。
「マジマジ。うちの顧問クジ運弱小」
「三年引退試合だっけ」
「そー。早いわ色々と」
髪を切りに行くのが面倒なので、小さい赤いゴムで金髪を細かく縛っていく。
試合中に前髪が目に入るなんて間抜けな瞬間は避けたいものだ。
つばるは六四に分けた髪を立てて、うねるように仕上げていく。
「明日だよね、何時から?」
「オレらは準備もあるから七時には出るけど。お前も応援来るんなら九時には体育館来いよ。バス乗っけてってもらお」
「他の寮生はどうやって行くん?」
「んー、隆にいと汐里アニキの車に別れて来んじゃないかな。三年は来ないだろうから足りるだろ」
「ふーん」
もういいや、とばかりに髪から手を離して、つばるはベッドに腰掛けた。
「オレもうそろそろ出るけど、どうすんの」
「俺も出る」
朝からつばると同じ部屋にいるのは、なんだか奇妙な気分だった。
ドアの鍵を閉めて、階段を降りながら弟の顔をじっと観察する。
目線に気づいたつばるが睨み返す。
「なんだよ」
「いや、何イラついてんの」
「イラついてねーし。試合に集中しろよ」
それにしては足音を鳴らして。
一階まで降りてから、つばるは言いづらそうに小さな声で尋ねた。
「あのさ。試合、応援行けなかったら悪い」
「は? 兄ちゃんの勇姿見届けてくんねえの?」
「なるべく行くけど。行けなかったらごめん」
「まあ結果は言いに行くよ。得点王取る瞬間くらいは見て欲しいけどなあー」
「アニキ」
玄関に向かいかけて足を止める。
いつになく、真剣な弟にこそばゆくなる。
「どした」
「勝てよ」
つばるが鼻を擦ってからもう一度言う。
「勝てよ、絶対」
こばるは親指を立ててにいっと笑った。
「もち!」
その背中が廊下の先に消えるのを見届けてから、つばるも玄関に向かった。
今日で道具を揃えるんだ。
人知れず決意を固めて、夏の陽光の中を気だるく街へと歩いていく。
昨夜のことを思い出して、ポケットの中で拳を握りながら。
我ながらコソコソと。