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もうLOVEっ!ハニー!
第21章 眩さから逃げ出して
小脇からのメッセージを繰り返し読みながら、ルカは炭酸水のペットボトルを訳もなくゆっくりと地面に円を描くように回していた。手首をぐるぐる回すことで、考えが整理されていくのを祈るように。
自分が提出した写真から動き出した列車が、思ったよりも大きな駅に向かっている。
奥歯にぐうっと力を込めて、上顎を舌で舐める。
「そうですかあ……そうですよね」
次の撮影以来の詳細に視線を走らせながら、浅く息を吸う。
あと十分したらもう一度内線電話をかけてみよう。
また留守かもしれない。
小さな端末をベッドにそっと置いてから、健康器にぶら下がる。
すぐに全身の体重を感じて筋張る腕の筋肉から意識を腹筋にずらしていく。
出来る限り時間をかけて足を持ち上げて、ピタリと数秒止めてから、爪先から下ろしていく。すぐに熱くなる首筋から汗が垂れる。空調はいつも熱めに設定している。
時間が経つのがもどかしく、何度もベッド脇のデジタル時計を見る。
二十二時に近づきつつある数字の羅列に、もう明日の連絡に引き延ばそうかと考える。それでも、今夜のうちに、新鮮な気持ちのうちに話しておきたかった。
とん、と飛び降りてから、受話器を耳に当てて素早く二、◯、九に指を押し当てる。数コールしてから、聞き慣れた関西訛りの声がした。
「夜分すみません。急ですけど、明後日の木曜日、二限終わりに早退してくれますか。オーディション通過の連絡がありました。二枠のうちの一つで、もう一人の方と絡んでの撮影になります」
おそらくコールの時点でこの話が飛び出してくると予想していたであろう、冷静な声が返答する。
手短に予定を伝えてから、電話を切ろうとして、締めの言葉が喉に引っかかった。
不自然な沈黙に、どした、と声が耳に響く。
「あ……さっきも電話したんですが、留守だったみたいで。どこにいたんですか」
首筋をぬったりと黒い大蛇が這い回るような鳥肌が立つ。
回答は分かっていたのに、何故そんな質問をしたのか。
自分の意図に気づいての、悪寒だった。
ガク先輩、切り捨てる覚悟はありますか。
本気でこの道に来るのであれば、その判断は早い方がいいですよ。
他人の人生に口を出せるほど、いつ偉くなったのだ、ルカ。
ガチャリ、と受話器を戻してから眉間を押さえた。
明日がスキップされて、明後日が来るといいのに。