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わたしの心が消えるとき
第9章 闇の向こう
貴志は、あれからインドネシアで商才を発揮して、青年実業家として成功を収めていた。
父の期待に見事に応えたのだ。

真由は頷いて
「うん、そうだね」
「だけどお母さんは、全然普通の人だよね?」
背後から声がした。
「普通が一番偉いんだよ」

ふたりが振り返ると、隆司が立っていた。
買い物から帰ったようだ。
彼は娘の隣に座ると
「いいかい、愛莉。お母さんは、すごく頑張って愛莉を育てたんだ。愛莉が普通にご飯が食べられて、普通に学校に行けて、普通に友達と遊べて、それはすごく幸せな事なんだよ。当たり前じゃない。みんなお母さんのおかげなんだ。お父さんはね、お母さんがこの世で一番偉いと思う」

真由が付け足して
「お父さんもいつも頑張ってるよ」
愛莉は頷いた。

愛莉の出生については、まだ本人に話していない。
いつかその時が来るかも知れない。
真由がそんな事を考えていると、隆司が
「しかし…ほのかちゃん、ホントいい女になったなぁ」
昔のようにニヤリと笑った。
真由は愛莉の後ろから手を廻して、隆司の頬をつねった。
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