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富美
第7章 約束
富美は人の噂の怖さを知っていた。
「秀夫ちゃん、約束して欲しい」
その夜、帰る前に言われた。
「人前では、うちんこと、富美と呼んだらあかん。必ず、金井さんと名字で呼ぶんよ。」
「どうして?」
「うちとあんたは20も年が違う。それなのに、富美って名前で呼んだら、誰だっておかしいと思う。そうなったら、もう会えんことになる」
「そんなの嫌だ」
「うちも嫌や。そやから、約束を守って欲しいんよ」
富美は秀夫の手をぎゅっと握った。それはどんな言葉よりも秀夫に強く伝わった。
「分かった」
「ありがと。じゃあ、また明日」
「おやすみ」
「おやすみ。気を付けて」
一つ階段を上った秀夫は富美の言ったことをちゃんと守った。
「金井さん、店先に水を撒いときます」
「秀夫ちゃん、ありがと」
久し振りに店の様子を見に来たオーナーは驚いていた。
「秀夫、随分大人になったな。富美さんに教えてもらったんか?」
「うちは何も教えとりまへん」
「へえ、自分で覚えたんか。感心やな」
「男の子はみんなしっかりしとります。そこらへんの男よりもずっと立派どす」
「ははあ、俺より立派か?あははは」
「そないなことは言うとりまへん。全くオーナーは、ふふふ」
富美はオーナーのお尻をポンポンと叩いていた。
「ほな、富美さん、任せたで」
「はい、社長はん」
「ははは、あんたには敵わんよ」
持ち上げられたオーナーはご機嫌で帰っていった。