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メンタリズムな恋…
第10章 先生、デートですか?
中華街の入り口で彼が懐かしげに空を見上げる。
「久しぶりだな…。」
寂しげにそう呟く。
あれほど賑やかだった新幹線の時と違い、ここに来るまではずっと口を閉じたままの先生だった。
神戸の思い出は辛いの?
私の手を離そうとしない先生の手を改めて握る。
私に気付いたように先生が私を見る。
「こっちだ…。」
慣れたように先生が中華街を歩き出す。
横浜の時もそうだった。
異国の雰囲気を醸し出し違和感を放つ街でも臆する事なく先生は歩く。
ただ、真っ直ぐに目的に向かって…。
「ここの肉まん買ってくれ…。」
現金を持たない先生が情けなく私に懇願する。
「なんで現金を持ってないの?」
「ドルならある。だから河合教授にはドルで支払った。」
なら、この経費って河合教授が立て替えてるって言わない!?
私よりも貧しい男に肉まんを買い与える。
「そのゴマ団子も…。」
先生が肉まんとは別にゴマ団子を持ち帰り用で買う。
肉まんは歩きながら食べる。
「美味しいっ!」
スープが溢れ出すアツアツの肉まん…。
皮はモッチリとしてて中の餡になるお肉がジューシーな肉まんをもう1つ食べたいと思っちゃう。
「美味いか?」
先生がやっと笑って私を見てくれる。
「うんっ!」
「なら、良かった…。」
2人で肉まんにかぶりつきながら神戸の街を海の方に向かって歩く。
先生はやはり私の手を離さない。
私が逸れる事を先生は恐れてる。
貴方をもっと知りたい。
私の我儘がまた一段と大きくなる。
貴方について行くから…。
私を何処かへと案内する先生について行く。
この街で暮らしてた先生を知りたいと願う私は過去への道を遡る旅へと1歩づつ踏み出していた。