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メンタリズムな恋…
第2章 先生、事件です
エレベーターの中で若い男の人と2人きり…。
こんなシチュエーションは初めての経験なのにドキドキ感が全くない。
若い男?
チラリと男を見る。
上下に灰色のスウェットを着たボサボサ頭のボロ雑巾のような男…。
眼鏡にかかる前髪のせいで顔の半分が見えないから若いかどうかもわからない。
確か大和さんって私の10歳上だったから…。
今は32かな?
ボロ雑巾男をジッと見る。
32?
どう見てもうちの学生と変わらないくらいの年齢にしか見えないボロ雑巾男…。
肌なんか私よりもツヤツヤで色が白い。
こんな人がFBIの一流メンタリストだと言われても、きっと誰も信じないだろう。
彼をぼんやりと観察して眺めるだけでエレベーターは地下の駐車場へと到着する。
彼は迷う事なくエレベーターを降りると自分の車に向かって歩いて行く。
「待って下さい!」
そう叫ぶ。
「なんで?」
赤い小さな車の前で彼が初めて立ち止まる。
「私が運転しますから…。」
「君…、誰?」
今、初めて私に気付いたように彼が言う。
「三好…、三好 亜子と言います。今日から一週間、先生の助手を務めさせて頂きます。」
「助手?」
「河合教授が説明しましたよね?」
「河合教授?」
日本語が通じないのか人の言語自体が通じないのかはわからないが先生は私の言葉をオウム返しする事ばかりを繰り返す。
「だから、とにかく私が運転しますから…。」
私が手を出せば彼は黙ったまま私に鍵の束をむんずと差し出して来る。
どうやら私の存在を認めさせる事だけには成功したのだとホッとする。
彼から受け取ったキーを見て
「何…、これ?」
と思わず呟いた。
まさに鍵…。
オートであるキー解除のスイッチが見当たらない鍵そのものという鍵…。
私の呟きに彼が私の方を見る。