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メンタリズムな恋…
第20章 先生…



普通を知らない人に普通をやれと私は押し付ける。

メンタリストどころかカウンセラーとしても失格だと最低な自分に笑うしかない。


「ほら、亜子がすき焼きを食べたかったのでしょ?お肉はいっぱいあるからしっかりと食べなさい。」


お母さんが私に言う。

私の両親が用意してくれたのは幸之助の為のすき焼きじゃない。

離れて暮らす私の為のすき焼きだと理解する。

こんな状況で私は幸之助に家族ごっこを押し付けてた。


「幸之助…。」

「肉、亜子が取ってくれ…。」


鍋の食べ方がわからない幸之助が私に自分の取り皿を差し出す。


「うん…。」


気を使って食べる食事なんか美味しいはずがない。

結局、夕食をほとんど食べられずに両親にこれ以上の心配をさせたくないと幸之助と2人で私の部屋へ引き籠る。

幸之助は面倒だと言わんばかりの態度で私のベッドに寝転がる。

天井を眺める幸之助の冷めた視線が私に向けられる事は無いのだと悟る。

今の私が出来る事は…。


「河合教授のところに帰っていいよ。」


そう言って私の家族という籠に入れようとした魔法の鳥を解き放つ。


「亜子?」

「幸之助が好き…、堪らなく好きよ。でも私が幸之助にしてあげられる事が見つからない。」


幸之助は黙ったまま私の話を聞く。

幸之助に見える私はまだ3歳のままだ。

いつか、幸之助が後悔する様な大人になってやるんだと唇を噛み締めて強がる。


「だから、幸之助を諦める。私は私の道を進む。」


私が出した答えに幸之助が笑ってくれる。


「おいで…。」


幸之助が私を右腕だけで抱き留める。

私が決めた2度目の幸之助との決別。

私が進むべき道はメンタリストの恋人じゃない。

私自身がカウンセラーとして人の心を支えられる女にならなければ幸之助の傍に居ても幸之助が存在しないのと同じなのだと理解した。

翌朝、幸之助は私の実家から出て行った。

1人になる私は両親の優しさの中で穏やかに笑うだけしかなかった。


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