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独占欲に捕らわれて
第5章 返済
「おはよ、チサちゃん。待ち合わせ場所に着く前に会えるなんて、運命なんだね」
「寝言は寝て言うものよ」
にっこり微笑みながら言う紅玲に、千聖はばっさりと言い捨てる。
「相変わらず手厳しいなぁ。そんなところも好きだけどね」
「はいはい……。ほら、さっさと行きましょ」
まともに相手にしても仕方ないと悟った千聖は、さっさと駅へ向かっていく。紅玲はヘラヘラしながらついて行く。

駅に入ると、紅玲は思い出したように口を開いた。
「ね、チサちゃん。片道だいたいどれくらい?」
「3千弱ね」
「んじゃ、ちょっと先にチャージしてくる。チサちゃんのは残高大丈夫?」
「片道分はあるわよ。あなたを待ってる時にでもチャージするつもりだから、大丈夫」
千聖がそう言うと、紅玲は大きな手を差し出した。
「え? なに?」
「チャージしてくるから貸して」
「いいわよ、別に」
千聖が断ると、紅玲は考え込むように唸る。

「いいからチャージしてきなさいよ……」
「カード出してくれないなら、契約破棄するよ?」
「は……?」
駄々っ子のような言い方にポカンとする千聖だが、どうやら彼は本気らしい。
「ねぇ、帰っちゃうよ?」
紅玲はポケットに手を突っ込んで、踵を返す。

「ちょっと待ってよ!」
千聖は慌てて紅玲の腕を掴んだ。
「なぁに? チサちゃん」
振り返った紅玲は、不機嫌そうだ。

「出すから、カード出すから帰らないで!」
千聖はケースからICカードを出すと、紅玲に差し出した。
「じゃあ、チャージしてくるね」
紅玲は上機嫌にICカードを受け取ると、切符売り場へ向かった。

「もう、なんなのよ……。読めないヤツね……」
千聖は人混みに紛れていく紅玲の背中を見ながら、盛大なため息をついた。

5分後、紅玲はICカードを持って戻ってきた。
「はい、お待たせ」
「……ありがとう。いくら入れたの?」
千聖が財布を出しながら言うと、紅玲はまた不機嫌な顔をする。
「俺の前では財布出さないでよ……。チサちゃんにお金出させる気ないから」
紅玲はそれだけ言うと、改札へ足を向ける。
「本当に訳が分からない……」
千聖は頭を抱えながら、紅玲に続いて改札を抜けた。その際に表示される残高を見れば、2万円近くの金額が表示された。
(金銭感覚狂ってるのかしら?)

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