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ひと夏の恋……そして……
第19章 好きなら奪って

「そんなに、夏樹さんの事が好きなんですか?」

その一言に悲しみより怒りが込み上げてくる。

「当たり前じゃないですか!!私が好きなのは夏樹なんです!佐伯さんじゃない。それなのに何で……なんでこん――」

「あ~~!!ママ、壁ドンされてる!!」

真和の言葉に驚いて顔をあげれば、真和と、真和の手を引いている夏樹が立っていた。
眉間には皺を寄せ、凄い形相で私と佐伯さんを睨んでいた。

「夏樹っ。誤解なのっ!私――」

誤解を解きたくて言葉にしようとした瞬間、佐伯さんは無理やり私にキスをした。
隙間から入り込む生温かな舌は口内を荒らしては私の蜜を吸い上げる。
嫌悪感しかないキスに逃げようとしても顔を固定さえていて逃げられない。
視線の端には苦悶に歪む夏樹の表情。
その表情を見ながら涙があふれてくる。
この場所から逃げ出したくて、この佐伯さんの手から逃げ出したくて、自由になる手だけを夏樹に向けた。
そして心の中で夏樹に助けを求める。


――助けて、夏樹っ


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