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ひと夏の恋……そして……
第19章 好きなら奪って
「諦めたの?」
「馬鹿だよなぁ……」
夏樹は私の両手を取り、指を絡めて抱きついてくる。
「今思えばさ。あの夏と一緒なんだよな。ふたりが一緒にいるところを見てさ、怒りと諦めが俺を覆いつくすんだ。俺の真緒に触るんじゃないっていう怒りと、お前は俺よりそっちを選ぶんだなっていう諦め。今回は真緒が何度も違うって言ってくれたけどさ、あの夏の出来事が頭から離れなくて、真緒が違うと言えば言うほど惨めになる俺がいるんだ。所詮はいじけてるだけの馬鹿な男だったんだけどさっ……いじける暇があったら奪いにいけって話だよな。俺がこんなんだからさ。真緒にも真和にも不安な思いさせて悪いと思ってる。佐伯さんにあそこまで言われないと踏ん切りがつかなかった俺は、本当に情けない」
夏樹は私の肩に顔を埋めて、最後は力なさげにつぶやいた。
私は自分の想いを夏樹に伝えるばかりで、夏樹の本当の心の内を理解しようとはしていなかった。
何に悩み何に苦しんでいるのか、それを理解していたら、こんなにも夏樹を苦しませる事はなかった。