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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第16章 2 宮様と王子
「完成した。どうかな」
「どれどれ」

 細く長いムエット(試香紙)に鼻先をそっと近づけ涼介は香りを嗅ぐ。

「うんっ、素晴らしい! これ商品化した方がいいですよ」
「うーん。ちょっと目的が目的だけによした方がいいだろう」
「むうっ、確かにこれじゃアダルト商品になっちゃうかなあ。――それなら、いっそ、どうです? こうしたら」
「ほうっ。ルームフレグランスよりもいいかもしれないな。流石だな。パフューマ―にはない発想かもしれない」
「お役に立てて光栄です。いつか僕も使いたいのでレシピ置いといてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
「さて、俺、ミントティーでも淹れますよ」
「ありがとう」
 色々なことにすっきり納得した涼介は心爽やかにキッチンへと向かった。


 キッチンでは薫り高いミントティーが薫樹を待っていた。

「どうぞ、あったかいうちに」
「いただきます」
「芳香ちゃんが持ってきてたミントを乾燥させて淹れてみましたよ」
「そうなのか。フレッシュとはまた違った味わいだ」

 以前、芳香が持ってきていた大量のスペアミントは涼介が持ち帰り、ドライハーブにしていた。

「長持ちしますしね。これはこれでいいものですよ」

 二人はいつの間にか仕事関係を超えている。薫樹にとっても涼介のように人懐っこい男は初めてだが不愉快ではない。
 女性なら薫樹に対して親しく接するのは恋愛関係を想定してのことであるが、男の涼介には勿論ない。利益を得ようとすることなく接してくる涼介に好感を得ている。
 学生時代に友人はいたが、各々研究と追及が主にやることであり、このように日常会話を交わすような交流は皆無だったような気がする。

「本当に君はミントのようだな。ミント王子という名は伊達じゃない」
「なんですか。いきなり。はははっ」

 薫樹も芳香と同様に人と親密な関係を構築している最中であった。
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