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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第21章 涼介のミントガーデン
――涼介には上に兄と姉がいて下に弟と妹がいる。幼いころから中途半端な位置で、両親から溺愛されたこともなければ、厳しくされたこともない。

 ある夏、母親の趣味で植えていたハーブ類の中でミントが暴走し庭一面を覆いつくす。どうやら『ミントテロ』と呼ばれるもので繁殖力の強いミントは、他のハーブを遮り雑草化し、庭がただの草むらになったことがある。
 それを家族中で必死に抜き、整地し直した。その後二度とミントは植えられなかった。

 家庭でも学校でも特に目立つことのなかった少年、涼介にはそのミントの強さが衝撃的だった。
そしてその除草の時に初めて『ミント』を知り、意識するようになった。ミントは生活の至る所にある。歯磨き粉、シャンプー、チューイングガム。
さりげなく生活に侵食する力そのものに涼介は感心し、気が付くとミントに相当詳しくなっていた。

 高校に入ってすぐに身長が伸び、自由に振舞ってきた闇のない明るい性格が日の目を見る。ミント好きが高じて、生物、化学にも好成績を残し、高身長を生かして入ったバスケット部でも注目を受ける。
 勿論、ミントの恩恵をそのままに大学では化学を専攻し、卒業してからベルサイユの調香学校に入学し、大手の化粧品会社に勤めた。
 経歴は薫樹とよく似ている。

 そして今はフリーの調香師、フレーバリストとして活躍中だ。「ミント王子」という呼び名は会社勤めをしているときに、社内のコンクールでマウスウォッシュのサンプルを提出した時からだ。
ミントは清涼感や爽快感を得られるため圧倒的に多く使われていて、入っていないものはなかった。
逆にそれを避け別の香り付けを行うものもいたが、今一つパッとしなかった。
 涼介も勿論、好きなミントの香料を使う。並みいる強豪の中、押し分けて涼介はトップに躍り出て、そのサンプルは商品化されることとなる。そこからミント王子の快進撃が始まる。
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