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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第5章 5 試作
 次の週も芳香は検体となるが眠り込んでしまう。
他人の前で、しかもこんなにかっこいい異性に対して緊張感なく眠り込んでしまう自分が不思議だ。
 恐らく薫樹は研究者で、芳香はその実験動物であり対等ではないことが、彼女を妙に安心させるのだろう。
 人の前で足の匂いを気にしない時間は初めてだ。



 1ヶ月ほど経つと芳香は自分の足の匂いが格段に減っていることに気づく。
休日の昼、足を洗わずに過ごしてみたがやはり以前よりも匂わない。流石に丸1日放置することは無理なようだが、これなら断り続けてきたランチの誘いに応じられるかもしれない。

 芳香は足の匂いのせいで恋人はおろか友人との深い付き合いもなく孤独に過ごしてきた。嫌われることはなくそれなりに友人関係は築いていたがあっさりとした表面的なもので、深く内面まで入り込むことはなかった。おかげで人間関係でトラブルを起こすことはなかったが少し寂しい。

 明るく優しい隣の席の立花真菜もそろそろランチを誘ってくれることがなくなるだろう。芳香は次に誘われたら絶対に応じたいと思っていた。
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