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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第23章 第四部 小さな狭い部屋で
 芳香は真菜の結婚式に招かれている。彼女たちの結婚式は、ごく普通に結婚式場のチャペルで愛を誓った後、そのまま披露宴会場でお色直しを2回ほどして、友人たちのスピーチやそれぞれの子供の頃のアルバム、出会いの編集されたムービーを観て賑やかなうちに終わった。



 真菜は結婚式に特別こだわりなかったようで、お互いの両親が納得する式であれば良しとしていた。

女性なら夢見るだろうウエディングに「みんながいいならそれでいい」と真菜は面倒がっていた。

 それでもお色直しでスモーキーなピンク色のドレスを着た真菜はとても可愛らしく美しい。

真菜はドレスも勿論普段の洋服も案外シンプルなものが好きで、乙女チックな装いにはあまり興味がない。



 顔立ちも雰囲気もフェミニンでそういった装いが似合うのにしないことがとても芳香はもったいないと思っている。それでもTPOを考え、上手に周りと合わせられる真菜の今日のドレスは誰が選んだのかわからないがよく似合っていた。



 初めて見る、話だけは聞いていた新郎の和也を見る。彼は爽やかな笑顔の好青年だ。サッカーのコーチをしているという彼は朗らかで明るく体格もがっしりしていて、柔らかい可愛らしさもつ真菜にぴったりだ。

 絵にかいたようなお似合いの二人を眺めていると芳香もとても幸せな気分になった。

披露宴の後、すぐに新婚旅行に出かける真菜から「来てくれてありがとう」と笑顔で引き出物を渡されて芳香は帰宅した。





 引き出物は『銀華堂化粧品』のバスセットとガラスのペア小鉢が入っていた。

バスセットの中身はソープとシャンプーとリンスでこれらは薫樹が香り付けしたものだ。

「いい香り」

 優しい甘い香りを嗅いで、ガラスの小鉢をさっと洗い棚にしまった。



「私も、いつか……」

 自分の隣に薫樹が並んでいることを想像する。以前、彼から結婚を視野に入れている話をされたが現実感がなかった。いまでもあまりにも夢のようで実感が沸かないが、一生を共にする相手が薫樹でありますようにと芳香は願う。

 そして今日見た幸せな真菜のようになりたいと祈った。
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