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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第26章 兵部家の一族
事情が呑み込めない芳香に薫樹は説明を始める。

「すまない。芳香。うちはこういうことが不得手なんだ。母は……あまり家事が得意ではなくてね……」
「ああ、そうなんですかあ。でも、おうどんを打ってくださるって」
「うむ。唯一上手な料理だ」

 薫樹の話に絹紫郎が加わる。

「母さんのうどんはのど越しが最高だからなあ。あれを食べるとほかの麺は食べられないだろう」

 満足そうに言う絹紫郎に透哉は同意しながらも意見を述べる。

「確かにそうですけど、薫樹の結婚相手が初めてきたんですよ? 普通はうどんじゃないでしょー」
「ん? 鈴音さんが来たときって、うどんじゃなかったっけ?」
「えっとー、一番最初は、家がここじゃなかったから、レストランで会食しましたよ」
「そうだったかなあ」

 透哉の話を聞き、瑞恵は落ち込んでいるようだ。鈴音が朗らかにフォローのような感想を述べる。

「お義母さんのおうどんを最初にいただいたとき、すっごい美味しくてご馳走だと思いましたよ」
「あら、そう?」
 少しだけ安堵の表情を瑞恵は見せたが、問題はまだ解決していない。

「今夜はどうする予定だったんだ?」
「菜園の白菜を煮て、冷ややっこでも食べればいいかと思ってました」
「まあ、私たち二人ならそれでいいんだがなあ」

 薫樹の両親は食事にはあまりこだわりがないらしく、特に父の絹紫郎は口当たりがよければほぼ大丈夫のようだ。
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