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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第6章 6 完成
 秘密にしているわけでも口止めされているわけでもないが、人に話しづらいことだ。
おまけに検体になり薫樹と会っている話を真菜にしてしまうと、消えそうになっている淡い恋心をまた自覚しかねない。報われない恋の相談になりそうだ。

 俯き加減の芳香に気づき、真菜は「どうかした? 酔っちゃった? 気分悪いの?」と優しく尋ねてくる。

「えっと、あの……」

ずっと隠してきたことを、薫樹のことではなく、自分のことを打ち明けられたらどうなるのだろうかと、芳香は不安と開放をいっぺんに感じる。

「お茶でも飲もっか。――スミマセーン、ウーロン茶二つくださーい」
「あ、ありがと」



 酔いを醒まし、初夏の夜風に当たりながら二人は歩く。

「楽しかったねー。また今度飲みにいこっか」
「うん、行きたい! すっごく楽しかった」

 今度はもう少し、自分の事を話したいと芳香は考えている。
それでもいつの間にか二人は「芳香ちゃん」「真菜ちゃん」と呼び合うようになっていた。
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