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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第7章 7 再開
 店先の鉢植えを全て店内にしまい、床の土を履き掃除し店じまいを始めた。

「店長、外、片付きましたー」
「ご苦労さん、ゆっくり休みなー」
「はーい」

 デニムのエプロンをロッカーに掛ける。

「はあー、今日も良く働いたあー」

 長靴を脱ぎ、足を薫樹の作ったボディシートで優しく拭くとふわっと木の香りが漂う。
このシートのおかげで芳香の足は劇的に匂いの改善が図られ、更に使い続けることによって匂いは悪臭に変わることがなくなっている。
 もう、わざわざ風呂以外で足を洗う必要はない。シートの完成に伴い、散々苦しめられてきた足の匂いが改善されたとき芳香は自由を感じた。そして自分の消去法の人生から見直したとき、仕事もやりがいのあることに変えたいと考え選んだ仕事が園芸の仕事だった。

 園芸など考えたこともなかったが、薫樹の指先の香り、そしてボディシートに使われた杉の木などに思いを馳せると植物の必要性を強く実感した。重い鉢植えや、ケースにぎっしり詰まった花の苗を運ぶ肉体労働は辛いこともあるが精神疲労より、ずっとましで爽快だ。

 以前勤めていた会社の立花真菜とは連絡を取り合い、いまではすっかり親友ともいえる存在になっていて、転職の相談をした時に近くの園芸店でアルバイトを募集していると情報をくれた。人生が上々になってきている感じがする。



 スニーカーに履き替えていると目の間に人影がよぎり、顔をあげると薫樹が腕組みをして立っていた。

「芳香、こんなところにいたのか。随分探したんだぞ」
「えっ? 薫樹さん? あ、こ、こんばんは。どうして、ここに……」

 どうして自分を探したのだろうかと不思議な想いで薫樹を眺めていると「明日、うちに来てほしい。休みなんだろう?」と言いぷいっと去って行った。

 しばらく芳香はポカンとしていたが次々帰宅する車のライトに気づき、帰ることにした。
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