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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第8章 8 混じりあう芳香
すっかり沈静した寝室から二人は出てダイニングに向かいお茶を飲むことにした。
「また、来てくれるかな」
「え、あ、はい」
「出来たら結婚してくれないかな」
「え、ああ、はい。え? は? け、っこん?」
「うん。通うのは面倒じゃないか? 一緒に暮らせばいいだろう」
「なんで、いきなりそんな話になるんですか?」
興奮し始めた芳香にもう一杯ミントティーを注ぎ勧めた。
「おそらくこれ以上のパートナーは出てこない」
「そんなこと、決めつけないでください」
「いや、僕が決めたんじゃない。香りで決まってる。相手の体臭が好ましいほど遺伝子レベルで求め合っているということだよ。
これだけ香りに囲まれていても君以上の名香には出会えなかった。きっと君もそうだ」
「……」
「前にも言ったけど、匂いだけじゃないから」
「――ちょっと、考えさせてください」
「うん。もう急がない。最高のものがあるってわかっただけでも十分だしね」
ミントの香りが漂うダイニングに他の香りが混じってくるかもしれないと思うと、薫樹は珍しく楽しい気持ちになった。