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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第9章 第二部 女友達
 芳香はパンティストッキングをするすると履いて足を眺めた。(キラキラしていいね)
ラメが混じった肌色のストッキングは生足よりも綺麗に見える。足の匂いが解消された彼女にとって、もう悪臭のもとになっていた合成繊維は怖くなかった。
 それでもいつ再発するかもしれないという思いもどこかにあり、見栄えの良いおしゃれを日常的に楽しむことはなかった。

 しかし今日は友人の立花真菜とランチだ。まるで男と会うように気合を入れて芳香は身支度を終え、最後はお気に入りのエナメルのストラップシューズを履いた。



「真菜ちゃん、おまたせ!」
「ううん、今、来たとこだよ」

 店の前の待ち合わせ用のベンチで真菜はにっこり笑いながら立ち上がる。真菜は柔らかい素材のブラウスとジーンズ姿でフェミニンだ。

「今日も真菜ちゃんは素敵だねえ」
「うふっ、芳香ちゃんもそのワンピよく似合ってるよ」

 褒め合いながら店内に入り、静かな奥の席に案内してもらう。真菜とはもう何度も一緒に食事をしておしゃべりを楽しんでいるがまだまだ芳香には新鮮で嬉しい時間だ。また薫樹と芳香が恋人同士と知る唯一の人物でもある。

 薫樹との出会いを話すと一番、真菜の心を動かしたのは芳香の匂いコンプレックスのことだった。
彼女の『芳香ちゃんって辛かっただろうに頑張り屋だね』という言葉に芳香は訳も分からず嬉しくて涙が滲んだ。
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