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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第2章 2 遍歴
定時になり社員はバタバタと帰宅の準備を始めた。この会社は研究開発チーム以外、ほぼ残業がなく社員は定刻にきっちり帰る。
「お疲れ様ー」
「あ、お疲れ様です」
「柏木さんはまっすぐ帰るの?」
隣の席の立花真菜がまつ毛をしばしばさせ尋ねてくる。
「ええ、一応。立花さんは?デート?」
「ふふっ、ばれたあ?」
「うん、エクステいいね。すごくかわいいよ」
「ありがと、柏木さんはやんないの?なんかこの会社に居る割にナチュラルメイクみたいだし」
「うーん。私って結構食べ物とか化粧品とかアレルギーが多くて……」
「ああ、そうなんだ。だからお弁当持ちなのねー。大変なんだあ」
立花真菜は同情するような納得するような表情で頷きながら席を立つ。
「じゃ、また」
「お疲れ様ですー」
オフィスが空っぽになるのを待ち、芳香は帰る準備をすることにした。更衣室にも、もう誰も来る者がいない。本当は屋上に行きたかったが皆が帰宅するのに屋上へ向かう行為は怪しまれるだろうと思い我慢する。
そっとパンプスを脱ぐと、むわっと異臭が放たれた。
「ううーっ、我ながら臭いなあー、はあー……」
芳香は足が臭かった。
産まれたときからなんとなく漂う香りのおかげで『芳香』と名付けられる。父親が源氏物語にちなんで『薫』にしようと言うのを母親が女の子だからと止めたのだった。(あーあ、源氏物語ならモテモテなのになあ……)
足の匂いのせいで芳香は恋愛どころか自分の居場所すら危ういのだ。綿で出来た通気性の良いソックスを脱ぎ、除菌ペーパーで丁寧に拭き、足を乾かしながら、パンプスの内部もペーパーで拭く。そして消臭スプレーを吹き付けまた乾かし、ソックスを新しいものに変え、スニーカーに履き替えた。
こうして毎日毎日足の匂いと格闘している。
「お疲れ様ー」
「あ、お疲れ様です」
「柏木さんはまっすぐ帰るの?」
隣の席の立花真菜がまつ毛をしばしばさせ尋ねてくる。
「ええ、一応。立花さんは?デート?」
「ふふっ、ばれたあ?」
「うん、エクステいいね。すごくかわいいよ」
「ありがと、柏木さんはやんないの?なんかこの会社に居る割にナチュラルメイクみたいだし」
「うーん。私って結構食べ物とか化粧品とかアレルギーが多くて……」
「ああ、そうなんだ。だからお弁当持ちなのねー。大変なんだあ」
立花真菜は同情するような納得するような表情で頷きながら席を立つ。
「じゃ、また」
「お疲れ様ですー」
オフィスが空っぽになるのを待ち、芳香は帰る準備をすることにした。更衣室にも、もう誰も来る者がいない。本当は屋上に行きたかったが皆が帰宅するのに屋上へ向かう行為は怪しまれるだろうと思い我慢する。
そっとパンプスを脱ぐと、むわっと異臭が放たれた。
「ううーっ、我ながら臭いなあー、はあー……」
芳香は足が臭かった。
産まれたときからなんとなく漂う香りのおかげで『芳香』と名付けられる。父親が源氏物語にちなんで『薫』にしようと言うのを母親が女の子だからと止めたのだった。(あーあ、源氏物語ならモテモテなのになあ……)
足の匂いのせいで芳香は恋愛どころか自分の居場所すら危ういのだ。綿で出来た通気性の良いソックスを脱ぎ、除菌ペーパーで丁寧に拭き、足を乾かしながら、パンプスの内部もペーパーで拭く。そして消臭スプレーを吹き付けまた乾かし、ソックスを新しいものに変え、スニーカーに履き替えた。
こうして毎日毎日足の匂いと格闘している。