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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第11章 3 真菜の秘密
 芳香は真菜がSであるということに驚いた。
見た目はフェミニンだが実際は頼もしい姉御肌でリードしてくれる真菜を勿論Mだとも思わないが、そこまでSっ気が強いとも思っていなかった。

「こういうさあ、趣向っていうのかなあ。好き嫌いってことじゃないと思うの。
ほんと合う合わないっていうか。今の彼以外に私が合う人ってたぶんいないんじゃないかな。
これからもし出会ったとしても、もうその時には和也といろんなことを積み上げたあとだと思うしね」

「はぁー、なんかすごく説得力ある」

「ふふっ、だから兵部さんもきっとそうだよ。どっちかっていうと芳香ちゃんの方がわかんなくない?」
「え? なんで?」
「だって、兵部さんは初めて好きになった人が芳香ちゃんだけど、芳香ちゃんは今まで好きになった人いるでしょ?」
「え、うん、そうだけど」

「匂いのことが解消されたらさあ、芳香ちゃんはもういつだって恋ができちゃう状態じゃない」
「あ、そ、そっかあ」
「だから兵部さんのことより芳香ちゃんの方が実際は心配ってこと」
「うーん。そうかなあ」

「先のことは、わかんないけどね。でも無駄に心配しなくてもいいと思うよ」
「そうだね。ありがと」
「ふふっ」

 珈琲をおかわりして店を出ると日が傾き始めていた。

「じゃあ、またね」
「うん。またねー」

 真菜と話をしてすっきりした芳香は薫樹の帰りが待ち遠しくなる。
そして今度一緒にニンニクを食べてみたいと思った。
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