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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第12章 4 ルームフレグランスの調香
 会社の研究室で薫樹は自分の指先を嗅いでみたが、匂いがわからない。

「本当に匂いがあるのだろうか?」


 一度指先の香りを調べるため、識別装置にかけてみたがなんの成分も出てこなかった。

「匂いがわからないなんてことがあるのだろうか」

 芳香がいい匂いだとうっとりするが、今まで誰にも指摘されたことがない。自分の体臭は自分ではよくわからないというが、どうなのだろう。
椅子に腰かけ、首をかしげているとノック音が聞こえたので「どうぞ」と招いた。

「失礼しまーすっ」
「ん? 野島さんか、何か用?」
「えー、用っていうかー、会いに来ただけです」
「勤務中なんだが……」

 薫樹の話を聞かず、野島美月はきょろきょろ研究室を眺める。今、研究開発部は一つのプロジェクトを終えたところで、薫樹以外の開発スタッフは長期休暇中だった。
ボディシートの売れ行きが良く、会社は野島美月を優遇しているため、このように社内をぶらつくことを戒めるものが誰もいないのだ。
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