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祭の夜
第1章 見覚えのない部屋
人の動く気配に義雄(よしお)は目を覚ました。
「起きたん?」
淑恵(としえ)の声がしたが、そこは十畳敷き程の日本間、座布団を連ねたところに寝かされていたが、見覚えのない部屋だった。
「あ、え、ここは?」
「もう忘れたん?」
旅館の浴衣を着た淑恵は風呂上りらしく、濡れたタオルを掛けていた。
「お風呂、気持ちええよ。義雄(よしお)ちゃんも入りなはれ」
「あ、うん」
義雄は起き上がったが、帯が解けて浴衣の前が開いていた。
「若いなあ」
淑恵はパンツが尖がっていたのを見て、クスッと笑っていた。
「あ、いや……まずい」
「ふふ、早う行っといで。汗を流せば、頭もすっきりするから」
義雄は浴衣を直すとタオルを手に浴室に入った。
「ふぅー」
湯船に浸かった義雄は手足を伸ばしているうちに、だんだん思い出してきた。
高校1年生の義雄は夏休みを利用して、京都の遠戚のところに遊びにきていたのだ。
「随分と大きくなったなあ」
「16です」
「そうか、もう高校生なんだよなあ」
この日は旅館で食事を取りながら五山送り火の見物だったが、「まあ、ビールぐらいええやろ」とおじさんに飲まされているうちに、ひっくり返ってしまった。
「淑恵、明日は四国でゴルフやから、わしはこのまま行く。義雄を頼むで」
枕元でこんなことを言っていたことが頭に浮かんできた。
(おじさんはもう出掛けてしまったのかなあ・・)
たっぷり汗を流した義雄は湯船から上がった。