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星逢いの灯台守
第5章 星逢いの灯台守
「…その昔話は母とかつての恋人の話だと、幼心にも気づいていたよ。
…母はずっと実らなかった初恋を、僕が生まれてからもなお、抱きしめ続けていたんだ…」

「…真紘さん…」
由貴子の﨟たけた美しい貌に、あの日の母のもの哀しくも煌めいていた面影が重なる。

その白く嫋やかな美しい貌にそっと手を伸ばす。
「…君は、母に少し似ている。
もちろん母は君のように上品な美人でもなかったし、賢くも教養も持ち合わせてはいなかったけれど…」

由貴子が毅然として首を振った。
「何を仰るの。
大変な境遇の中、貴方をこんなにもご立派に育てられた方よ。
強くて優しくて素晴らしい方よ。
私なんて足元にも及ばないわ」

優しい言葉に、宮緒の目頭が熱くなる。
「…けれど、思春期の僕は母を密やかに疎んじていたんだ。
…この町では母は愛人で僕は愛人の子どもだった。
父は町の権力者だったから、危害を加えたり、虐めたりするものはいなかった。
寧ろ腫れものに触るような状況だった。
日陰者の生活に息が詰まった。
…横浜の富裕な私学に進学してからは、友人の家族が羨ましかった。
経済的なことじゃない。
何の不足も後ろ暗いところもない家族を持つ彼らに、僕は自分の出自を一切語ることはなかった。
…兄さんだけが誇りだった。
母さんは…認めたくないもうひとりの陰の自分だった。
…だから一度も学校の行事に招待したことはなかった。
ただの一度もだよ。
母を恥ずべき者と、どこかで見下していたからだ。
…自分の母親なのに…!」

…母さん…ごめんね…。
小さな小さな宮緒が、母と並んで灯台を見つめた同じ浜辺で泣きながら詫びる。
「…ごめんね…母さん…ごめん…ごめ…」
宮緒の身体がふわりと白檀の薫りに包まれ、温かな吐息が耳元にかかった。
「…お母様はとっくに許していらっしゃるわ。
…ううん。もともと貴方を責めてもいらっしゃらない。
だって、貴方は大切な大切なお母様の宝物なんですもの…。
…お母様は仰ったんでしょう?
幸せだ…て」
「…由貴子…」
涙に揺らぐ由貴子の美しい瞳が、慈しみ深く微笑んでいた。
記憶の彼方の母の笑顔と静かに重なってゆく。

…うちは幸せや。
もう、いつ死んでもええわ…。
…真紘、ありがとうね…。






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