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はなむぐり
第8章 花に包まれる

20代の頃に住み始めたこの部屋に、今は蜜樹と二人で暮らしている。帰ってくるたびに毎回思う。少しずつ増えた日用品や機能性が高いドライヤー、二つ並ぶコップとお揃いの茶碗、蜜樹の香り。私の臭い。
母さんが持たせてくれた煮物に蜜樹は喜び、さらには果物の盛り合わせと少しくたびれた花束にも喜んだ。小花のみの花束を優しい目で見つめ、水の張ったボウルの中で茎を斜めに切り落として小さなひょうたん型のガラスの瓶に挿した。そして、果物の盛り合わせをガラスの皿に移して花とともにリビングにいる兄の前に置いて、二人並んで手を合わせた。ばあちゃんと同じことしてるよと言うと、満面の笑みを返してくれた。
私のせいで遅くなってしまった夕飯は今日も豪華だった。豚汁ときのこの炊き込みご飯、だし巻き卵とほうれん草のごま和えと母さんの煮物。申し訳なさがあっていつものようにがっつけない私に蜜樹は『お弁当を全部食べてくれたから許してあげる』と言ってくれた。残したことなどないが、胸を張って自慢できるのはそれぐらいだ。

