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飼い殺しの犬
第1章 飼い殺しの犬


湿っぽい匂いがする。
雨の日の教室。濡れたシャツのまま授業を受けた時に湿った机からする、あの独特の匂いに似ている。

……雨、降ったのだろうか。

「………」

重い瞼を持ち上げれば、そこに映るのは相も変わらぬ天井。もう、見飽きる程隅々まで眺めているから、何処にどんな染みがあるのか把握してしまっている。

キッチリと締められた白のレースカーテン。
晴れた日は、そこから漏れる光で今が朝なのか夜なのかを判断できる。が、天候が悪いとそれが難しい。


……それにしても、喉が渇いた。


空気に含む僅かな湿気を取り込むかのように、唇を割って舌で絡め取り、ぱくりと口に含む。


その時だった。

「……いい子にしてるかぁ……?」


ドアが開き、男が入ってくる。
見なくても、声と話し方だけで解る。
……渡瀬先輩だ。


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