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飼い殺しの犬
第1章 飼い殺しの犬


……柚木

「おい、柚木」


ぴたぴたと冷たい物が軽く当てられ、意識が戻ってくる。

遠くから聞こえる、懐かしい声。


──まさか、山下……?
なんて。
きっとこれは幻聴。

ああ、とうとうここまできちゃったか。
頭の痺れは取れないし、脳が欲しいって執拗に訴えてくる。


開きかけた瞼を再び閉じれば、ぴたっと冷たい物が頬に押し当てられた。


「……おい柚木、起きろ」


今度はハッキリと聞こえる。
重症だ。


「どういう事だよ、これ」


……違う。

パッと目を開ければ、僕を見下ろす山下の顔が。

「………っ、」

途端に蘇る、羞恥心。
手足を拘束され、顔や口には塗れたザーメン。
おまけに全裸。

この状況を、幼馴染みでもありサークルメンバーでもある山下に見られるなんて……

「なん、で……ここに……」
「それはこっちの台詞」

言いながら、山下は持っていたペットボトルを脇に置いた。

「渡瀬先輩に呼び出されて来たんだよ。したらいなくて、お前が……」

……いないのか、先輩。

「てか、何なんだよこれ」

眉間に皺を寄せながら、僕の両手首に視線を移す。
手錠。その鎖部分に引っ掛けた太い鎖の先は、杭で壁に固定されていた。
ついでに言うと、足首にも手錠が嵌められている。

最初の頃はどうにかして脱出しようと試みたが、見ての通りの結果だ。

薄く笑みを漏らせば、山下が僕に視線を戻す。

「……僕にも、よく解んない」


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