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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
「何かあったの?
大丈夫?」
雨航と呼ばれた青年は暁蕾を庇うように貌を覗き込む。
「…ユーハン…。
大丈夫よ、何でもないわ」
「…シャオレイ…こちらは?」
雨航はやや強い眼差しで片岡を見つめた。
「私がガイドしているお客様よ。日本の方なの」
「日本人…」
北京語のやり取りはざっくりしかわからない。
片岡はゆっくりと立ち上がり右手を差し出し、英語で話しかけた。
「初めまして。片岡です。
今日から一週間、ミス・祭に観光ガイドをお願いしました」
雨航はすんなりと片岡の手を取った。
意外な強さで、その手は握り返された。
「初めまして。王 雨航と申します。
シャオレイとは幼馴染の間柄です」
青年の口からは綺麗なブリティッシュイングリッシュが流れてきた。
育ちの良さが細部に感じられるような青年だ。
雨航は人当たりの良い微笑みを湛えたまま、その瞳には一切の笑みも浮かべずに続けた。
「…ミスター・片岡。
つかぬ事を伺いますが、シャオレイにチャイナドレスを着せたのは貴方ですか?
シャオレイは自分でこんな格好はしません。
貴方がゲストの権限で着させたのだとしたら…」
…その口調には明らかに静かな憤りが感じられた。
…と、片岡が口を開く前に
「違うわ、ユーハン。
私も了解したのよ」
凛とした暁蕾の声が重なった。
「…シャオレイ…」
驚いたように雨航が眼を見張った。
「チャイナドレスは強制ではないわ。
だから心配しないで」
そうして、何か言いたげな雨航に暁蕾は明るく笑いかけたのだった。
「さあ、ステージに戻って。
ダイニングのお客様たちは貴方の二胡を聴きたがっているわ。
…次は…そうね、蘇州夜曲を弾いてちょうだい。
私の日本のお客様のために…」
大丈夫?」
雨航と呼ばれた青年は暁蕾を庇うように貌を覗き込む。
「…ユーハン…。
大丈夫よ、何でもないわ」
「…シャオレイ…こちらは?」
雨航はやや強い眼差しで片岡を見つめた。
「私がガイドしているお客様よ。日本の方なの」
「日本人…」
北京語のやり取りはざっくりしかわからない。
片岡はゆっくりと立ち上がり右手を差し出し、英語で話しかけた。
「初めまして。片岡です。
今日から一週間、ミス・祭に観光ガイドをお願いしました」
雨航はすんなりと片岡の手を取った。
意外な強さで、その手は握り返された。
「初めまして。王 雨航と申します。
シャオレイとは幼馴染の間柄です」
青年の口からは綺麗なブリティッシュイングリッシュが流れてきた。
育ちの良さが細部に感じられるような青年だ。
雨航は人当たりの良い微笑みを湛えたまま、その瞳には一切の笑みも浮かべずに続けた。
「…ミスター・片岡。
つかぬ事を伺いますが、シャオレイにチャイナドレスを着せたのは貴方ですか?
シャオレイは自分でこんな格好はしません。
貴方がゲストの権限で着させたのだとしたら…」
…その口調には明らかに静かな憤りが感じられた。
…と、片岡が口を開く前に
「違うわ、ユーハン。
私も了解したのよ」
凛とした暁蕾の声が重なった。
「…シャオレイ…」
驚いたように雨航が眼を見張った。
「チャイナドレスは強制ではないわ。
だから心配しないで」
そうして、何か言いたげな雨航に暁蕾は明るく笑いかけたのだった。
「さあ、ステージに戻って。
ダイニングのお客様たちは貴方の二胡を聴きたがっているわ。
…次は…そうね、蘇州夜曲を弾いてちょうだい。
私の日本のお客様のために…」