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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
…蘇州の夜は静かだった。
聞こえる音は、水路の微かな水音と…風を渡る柳の葉のさやかな囁きだ。

暁蕾の額のタオルを替え、そっと窓辺に近づく。

天にはまるでランタンを映したような、橙色の月がかかっていた。

…さながら、この世に二人きりのような静寂であった。

いつか…遠い昔に、こんな夜を澄佳と過ごしたような気がした。

けれど違うと、片岡は思った。

…初めての夜だ。

…そうだ。
澄佳ではない。
暁蕾は、澄佳ではない。
暁蕾と二人きりの夜は、初めてなのだ。

ほかの誰でもない…。
暁蕾と、自分は確かにここにいるのだ。


…僅かな身じろぎが、寝台の中から聞こえた。
片岡は振り返る。

薄い紗幕の中、小さな声が響いた。

「…片岡さん…?」
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