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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
紗幕をそっと持ち上げ、中を覗き込む。
「シャオレイ…。どう?具合は?」
暁蕾の貌色は明るく、瞳は綺麗に澄んでいた。
ゆっくり起き上がり、不思議そうに周りを見渡した。
「…大丈夫です。
…あの…私…どうして?」

寝台に腰掛けながら、暁蕾の額に手を当てる。
「君は高熱を出して倒れたんだ。
…よかった…熱はだいぶ下がってきたな…」
片岡はほっと胸を撫で下ろす。
そして、女将の好意で宿に泊めてもらったことを簡単に説明した。

「…そうなんですか…。すっかりご迷惑をかけてしまって…。
…あの…もしかして…ずっと看病してくださったの?」
恐縮しながら、暁蕾は片岡を見上げた。

「ああ。突然倒れたから驚いたよ。
…心配したよ。本当に…」
思わずブランケットに置かれた暁蕾の手を握りしめる。
…先程の氷のような冷たさはもうなかった。
温かな手に、心から安心する。

暁蕾の真っ直ぐな美しい瞳と眼が合う。
慌てて手を引っ込める。
「…ごめん…」
急いで立ち上がり、暁蕾に背を向ける。
「…薬を飲んで、もう寝なさい。
熱がぶり返すといけない。
俺は隣の部屋にいるから…。何かあったら呼んで…」
行きかけた手を不意に握りしめられる。
固まる片岡に、暁蕾が懇願するように告げた。
「…行かないで…。
…そばにいてください…」
ゆっくりと振り返る。
「…シャオレイ…」

…雲が晴れ…ランタンのような月が、暁蕾の白く美しい貌を冴え冴えと照らした。





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