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蘇州の夜啼鳥
第2章 かりそめの恋
…なぜなんだ。
なぜ二度も池に落ちなきゃならないんだ!
蘇州くんだりの古池に…!
一体何の因果なんだ⁈
俺のご先祖様はかつて蘇州で結婚詐欺や馬賊でもしでかしたのか?
その因果が俺に来ているのか?

諦めに似た気持ちで池の底に沈む片岡の耳に、欧米人たちツーリストの歓声に似た悲鳴が反響しながら聞こえてきた。

「ジーザス!」
「オーマイガッ!」

…こっちのセリフだ、全く!
モスグリーン色の池の水の中、ぼやく片岡の腕を必死で引き上げようとする温かな手があった。

「どうしよう!片岡さん!大丈夫⁈」
…これもデジャブだ…。
だが、この手に再び触れられるのは嬉しい誤算だ。
ざぶざぶと池から浮上し、髪を搔き上げる。
…目の前には同じように濡れ鼠になり、今にも泣き出しそうな暁蕾がいた。
「大丈夫だよ。
シャオレイ、怪我はない?」
…これもデジャブだ。
「ええ。大丈夫…私…」
二人は目を見合わせ…やがて小さく吹き出した。

「…私たち…馬鹿みたいね」
「ああ、そうだな。馬鹿みたいだ」
「二度も拙政園の池に落ちて…またずぶ濡れだわ」
「君に怪我がなくて良かった」
暁蕾がくしゃりと貌を歪めて俯いた。
「…私…私…」
池の中に座り込んだままの暁蕾を引き寄せ、抱き締める。
暁蕾は、もう拒みはしなかった。
「…シャオレイ…愛している…。君にそばにいてほしい。
結婚してくれ…」
腕の中の暁蕾が、強くしがみついてきた。
「…お転婆で、跳ねっ返りで、癇癪持ちで、子どもっぽい私でいいの?」
涙に濡れた小さな白い貌を持ち上げる。
「…お転婆で、跳ねっ返りで、癇癪持ちで、子どもっぽい君がいいんだ…」
「…片岡さ…」
ひんやりした暁蕾の薄紅色の唇を優しく奪った。
ギャラリーのツーリストたちから、派手な歓声と口笛が鳴り響く。
…欧米人は陽気だ。
中国人の美人ガイドと日本人の中年男が国宝の池でキスシーンを披露したなんて、旅の土産話にはぴったりなのだろう。

唇を離し微笑い合う二人に、呆れたような声が飛ぶ。
「おやまあ!あんたたち、またかい!
全く、性懲りも無く同じ池に落ちちまって…。
本当に酔狂なカップルだよ。
さあ、早く池から上がりな。
宿の部屋は空いているさ。いつでもね」

橋の欄干に掴まり派手に手を振る茶館の女将の姿が、そこにはあったのだ。
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