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恋する真珠
第2章 恋するカナリア
がっしりとした逞しい腰にエプロンを着け、広い厨房に立つ涼太に、瑠璃子は背中から抱きついた。
「涼ちゃん!どこにいっちゃったかと思った!」

背中越しにぶっきらぼうな声が返ってきた。
「俺の家だ。
どこにも行くわけねえだろうが」
無愛想な声には昨夜の甘さは微塵もない。
…温かな涼太の体温を搔き集めるように抱きしめる。
「…ねえ…涼ちゃん…」
…私たち、昨日…
甘えるように言いかけた瑠璃子に、被せるように言い放った。
「おい。風呂に入ったらちょっと厨房を手伝ってくれ。
今日は宿泊が満杯なのにパートの吉田さんとこの嫁さんがさっき産気づいちまったらしい。
お袋は風邪引いちまってるし、親父は昨日またギックリをやっちまった。
人手が全然足りねえんだ」
瑠璃子の方は見ようともせずに、涼太は俎板の上のキャベツを器用にざくざくと刻み続ける。

「…いいけど…」
…昨日、私たちは初めて結ばれたのに…。
ロマンチックのかけらもないんだから…。

瑠璃子は少し不貞腐れる。
「…お風呂、入ってくる…」
ぶすっとしながら行こうとする瑠璃子の腕が無造作に掴まれる。
「…客たちに見られるな。
そんなえろい格好で…」
怒ったような眼差しで見下ろされ、自分のエプロンを瑠璃子の華奢な腰に巻きつけた。
「…うん…」
そのまま行こうとした腕を、今度はもっと強い力で引き寄せられた。
「…あ…」
驚きに半開きになった柔らかな唇をいきなり奪われる。
「…んんっ…は…あ…ん…」
昨夜の続きのような…甘やかで濃密な口づけをひたすらに与えられる。
甘く優しい口づけを瑠璃子が酔いしれるまで交わしたのち、涼太は照れたように笑った。

「…愛してる。瑠璃子…」
「…涼ちゃん…!」
瑠璃子は爪先立ちで涼太に抱きつく。

…涼太の逞しい肩越しに見える夏の海は、あの日のように眩しく…色鮮やかに煌めいているのだった。




〜「恋するカナリア」fin〜

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