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さすがに無理やろ
第10章 天国と地獄
「わかった、わかった。
ほな日曜日の昼間どうや?」

「ほんとうですか?」

水本さんは
更に俺のスーツを掴んで
身体を寄せた

「お、おう」

「じゃあ、時間と場所は
私が決めてもいい?」

急にタメ口?

「あー…せやな」

「やった!
じゃあ決めたら電話入れますね!
新飼さん、だーい好き」

「お、おい」

あろうことか
水本さんは
こんなところでそんなことを言いながら
俺の肩に一度おでこをつけ
そして
ニッコリと笑って
スーツから手を離した

なんやこの子
ちょっと…やり過ぎちゃうか?
そう思うてたら

「じゃあ私、帰りますね。
お疲れ様でしたー」

と、わりとあっさり
帰って行ってしまった

なんなんや…
水本さん
あーゆー子やったか?
まぁでも
変なとこ誰にも見られんでよかったわ
と、ネクタイを緩めながら
エレベーターの方にチラッと目をやると
誰もおらんと思うてたのに
エレベーターの前で
一人立ちすくんでいる
青山さんが見えた

えっ…青山さん、いつから…

あかん!
あかんあかんあかん!
勘違いされる!!
そう思いながら
俺の脳裏には
おでこを肩につける水本さんや
『だーい好き』
と笑う水本さんが浮かんだ

「あ、青山さん!」

思わず
急いで青山さんに駆け寄ると
青山さんは
少し硬い表情のままで

「お疲れ様でした」

と、仕事モードの声で
俺に軽く会釈をした

やばい
絶対、見られてる
あかん!絶対勘違いされてる!!

「あ、あんな
前々から水本さんに
相談乗って欲しい言われててな」

俺は一気に
言い訳を捲し立てたけど

「新飼さん」

青山さんは
そんな話は聞きたくない
という風に俺の話を遮った

「明日のお約束なんですけど」

「いや、いやいやいや
ちょっと話聞いてぇな。
今のは何でもないねん!」

そう伝えたものの
青山さんの
仕事モードの表情と声は
変わらへんままで
恐れていた言葉が
俺の耳を貫いた

「急用ができましたので
キャンセルさせていただきます」

「青山さん、勘違いやねん!」

「はい」

「えっ?」

「その通り、勘違いでした。
新飼さんを信用したことが」

そう言うと
青山さんは玄関に向かって
歩き出してしまった
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