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さすがに無理やろ
第1章 可愛子ちゃん

コーヒーを飲みながら
メールチェックを進めていると
一人…二人…と
徐々に社員は退社して行き
30分もすると事務所には
俺と可愛子ちゃんの二人きりになる

ここ1カ月くらい
週末の金曜日は
こんなパターンが続いているんや

そして
誰も居なくなったその時
可愛子ちゃんは
俺に声をかける

「いいですよ、開けても」

「いっつもありがとうな」

開ける
というのは窓のことや

まだ慣れてへんのか
なんや息苦しい東京

俺はつい
デスク近くの窓を開けたくなる

「私も窓を開けると気持ちいいから」

「そうかぁ…あー…気持ちえぇなぁ…」

俺はそう言いながら
いつものように窓から顔を出して
もう薄暗くなった
夜空を見上げた

そう言えば
可愛子ちゃんも
都会育ちやなかったな…

こんな都会で一人暮らし
ほんまに今日は
デートやないんやろうか

デートやないにしても
なんで金曜日に
あの子だけ残業してんのやろ

まぁ俺は
二人きりになれて
嬉しいんやけど

「なぁ、水本さん」

「は、はい」

「なんで水本さんだけ残業してるんや?
もしかして
他の女子に仕事押し付けられてんのと違うか?」

そうとしか考えられへんかった

「あ、いえ、そんなんじゃなくて
ただ私が要領悪いだけで…」

可愛子ちゃんは
そう言いながら書類に視線を落とした

「コツ、教えたろか?」

正直に言うわ

コツ教えるとか言うたのは
可愛子ちゃんに近づくためや

「え、そんな…
新飼さんも忙しくて
残業してるのに…」

せやから
忙しかっても教えたる言うてんねん

俺は可愛子ちゃんの遠慮をよそに
可愛子ちゃんの隣の席に腰を下ろした

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