この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
お園さん
第2章 出会い
彼女の本名は飯田(いいだ)園子(そのこ)、私は「お園さん」と呼んでいる。
知りあったのは今から20年前。当時、彼女は私が通う高校の近く、通学路に面した門構えの家に住んでいた。
お園さんは着物がよく似合う女性だが、その頃も着物姿でいることが多く、私は学校の行き帰りに、家の前を掃除していたりしている彼女を見かけると、秘かに「今日はいい日だ」と喜んでいた。
しかし、彼女に関心を寄せていたのは私だけではない。品があって、女優の高島礼子さんに似た美人を、生意気な男子高校生が見逃す訳がない。
「未亡人だってよ」
「いや、妾だぞ」
学校では、こんな勝手な噂が囁かれていたが、本当のことは誰も知らなかった。
そんな彼女と私が知り合ったのは、ほんの偶然だった。
あれは8月初め、夏休みの部活に出掛けた午後1時頃のこと、私が高校のある駅に降り立つと、突然雨が降り出した。
バス停は目と鼻の先だが、「困ったわね。傘が無いのよ」と足止めになった人たちで駅構内は溢れていた。
私はカバンから折りたたみ傘を取り出し、バス停に向かおうとしたが、その時、人混みの中に、珍しくワンピースを着たお園さんを見つけた。
何故、そんなことを考えたのか、今でもよく分らないが、「断られたって、誰も見たないんだから」と思った私は彼女に近寄ると、「どうぞ」と傘を差し出した。
すると、お園さんは驚いた様子で、「えっ、私?」と聞き返してきたが、「あ、あの、僕、○○高校なんです」と答えると、同じ方向だからと納得したのか、「あら、そうなの…それじゃあ」と受けてくれた。奇跡としかあり得ないことだった。