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夜明けまでのセレナーデ
第7章 Fantôme de l'Opéra 〜epilogue〜
「…だけど…八雲さんはどうやってあの燃え盛る礼拝堂の塔から逃げ延びたのかなぁ…」
手紙を読み返しながら、薫は唸った。
「…速水さんの話によれば、八雲さんは瑞葉さんに刺されて怪我をしていたみたいだし…。
普通に考えて、生きて脱出するのは不可能じゃないですか?」

「…さ、それはどうかな。
瑞葉さんの力は弱い。
八雲さんには致命傷ではなかったんだろう。
…それに…」

立ち上がり、紳一郎は奥のキャビネットから年代物の赤ワインを取り出す。
…実家のワインセラーから、くすねてきた代物だ。

「八雲さんは、裏階段を知っていたしね」
「へ?…何ですか?それ…」
薫が鳩が豆鉄砲を食ったような貌をする。
二つのバカラのグラスにワインを注ぎながら、さもない様子で紳一郎は答えた。
「あの塔、隠し扉と裏階段があるんだよ。
明治の昔、亡命した神父を匿っていたことがあったらしい」
「え⁈じゃあ、そこから逃げたんですか?
…それにしても…」
「ああ、そうだ。
それにしても何の痕跡も残さず、逃げおおせて…しかも三年も消息を断つなんて…まず不可能だ」
…だから…
と、薫にワイングラスを渡しながら、どこかしみじみとした口調で呟いた。
「…やはり八雲さんはあの塔で死んだんだと思う」

薫が大きな眼を瞬かせる。
「…どういう意味ですか?
訳が分からない」
「一度死んで…生まれ変わったのかもしれないな。彼は…。
…けれど、生まれ変わっても尚…失われた半身を求めるように、瑞葉さんの前に現れたのだろう」
…ファントムのように…。

ワインを飲み干し、紳一郎は静かに立ち上がる。
…今はもう跡形もない礼拝堂の面影を探すように、窓越しに見渡した。

「…そんな…!
瑞葉さんは新しい人生を生きていたのに!」
憮然とする薫を、ゆっくりと振り返る。

「…言っただろう?
誰も運命の恋には抗えない…と」

紳一郎の繊細な雛人形のような横貌に、幽かな微笑みが浮かんでいた。

…それは、哀しいまでに歪な…けれど妖しく美しい二人への慈愛と…密かな憧憬の微笑みであるようだった。



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