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夜明けまでのセレナーデ
第10章 僕の運命のひと
「…そうか…。なるほどね…」
礼拝堂に据え置かれた蓄音機の修理をしながら、紳一郎が淡々と返事をする。
紳一郎は器用だ。
…パイプオルガンにピアノにヴァイオリン…見よう見まねで、楽器の調律や修理もしてしまう。
…誰かの影響なのだろうけれど…。

「…小父様に八つ当たりしてしまいました…。
小父様だって僕に気遣ってあんなことを仰ったんだろうけれど…。
小父様の口からだけは、聴きたくなかったんです」

…大紋だけは、暁人の生還を信じていると思ったからだ。
いつも穏やかで冷静で頼もしい大紋は、父親と同じくらいに揺るぎない存在なのだ。
…その大紋が…。

「…父親だから…なんじゃないか?
絢子さんのこともあるし…色々考えた末に、薫を解放してやらなきゃと思われたのさ」
事もなげに言われ、薫は眉を逆立たせる。
「紳一郎さん!」
「…もうすぐ終戦から一年だ…」
ぽつりと呟いた声が、余りに寂しく寒々しかった。

「じゃあ、紳一郎さんも十市さんが亡くなっていると思っているんですか⁈」
…軍の諜報部員として南方に行かされた紳一郎の恋人、十市もまた生死不明のままであった。

「いや」
短く答え、振り返った。
「十市は生きている。
僕は信じている」
京雛のように典雅な白い貌は、毅然としていた。

「…紳一郎さん…」

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