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夜明けまでのセレナーデ
第10章 僕の運命のひと
…終戦後二年近く経つと、皆んな、忘れてしまうのかな…。

薫は、寄宿舎の廊下の窓から礼拝堂を見上げた。
そうして、ふと小さくため息を吐いた。

学院の生徒たちも通常通りの生活を始めている。
元々、富裕な家庭の子弟ばかりの学校だ。
戦前の生活に戻るのは、そう難しいことではなかったのだ。
中には貴族の身分を剥奪され、生活が困窮し、学院を退学する生徒もいたが、それはほんの一部であった。
多くの生徒は、戦争前と変わらぬ生活レベルを維持し、いわゆる特権階級の恵まれた生活を続けていた。

…薫の家も例外ではない。
だから、何かを物申すのは筋違いだと分かっている。

けれど…。

…こうして、戦争があったことすらも、いつかは次第に忘れ去られていくのだろうか…。


…でも、僕は…。

忘れることなどできない…。

…暁人のことを…。

皆が忘れても…。

「…いつまでも、待ち続けているよ」

小さく口に出す。

…鈍色の空から、やがて小さく儚い淡雪が舞い降り始めた…。


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